神奈川県から約1世紀ぶりに再発見されたシャコのはなし

2026.01.04

 2026年もどうぞよろしくお願いいたします。今回の「自然と歴史のたより」担当は中島(海洋生物学担当)です。直近5年間は沖縄で学生をしておりましたので、本州の厳しい寒さを感じながらの年越しは久々でした。その沖縄生活の前は東京で学生をしていたのですが、その頃に三浦半島で見つけた「あるシャコ」について最近研究成果が出ました。「たより」担当は初めてということもあり、個人的に馴染み深いこのシャコのことから書きたいと思います。

 

 そもそもシャコとは何でしょうか?寿司ネタになるとか、パンチをすることで有名かもしれません。シャコの仲間は、世界では500種ほど、国内では100種ほどが知られている甲殻類です。私は大学生のころからこのシャコの仲間の種多様性について研究をしていますが、国内ではあまり研究がされてこなかったため、まだまだ未知の種が見つかります。また、すでに古い記録によって日本に分布することがわかっている種についても、それ以来見過ごされ、現在の分布状況がわからないとか、そもそも本当にその種であるのかといった再検討がされていない、ということが多々あります。

 今回紹介する「チャイロシャコ」も、まさにそんな見過ごされてきた種です。約1世紀前に三浦半島から見つかっていたのですが、その正体がはっきりしないままとなっていました。

 このシャコは、ウニシャコ科フタオシャコ属に属する種で、尾節(体の一番後ろの部分)の表面が小さな棘で密に覆われることなどが特徴的な種です。この特徴をもつ種の存在自体は古くから知られており、1908年に千葉県から、1927年には横須賀市秋谷と三浦市から報告されていました。1947年には『日本動物図鑑改訂増補版』という図鑑にてはじめて『ちゃいろしゃこ』という和名で紹介されました。

 ただしその後、この種について標本を観察した分類学研究がほとんどなく、その実態がよくわからないまま、複数の図鑑等の刊行物において、様々な学名や和名で扱われているという状況でした。そして結局は海外のチームによって実は未記載種(学名が付いていなかった種)であったことが示され、2018年にChorisquilla orientalisという学名で新種記載されました。今回、最も古くに使用されていた和名を採用し、この種をチャイロシャコと呼んでいます。

 

 

 実はちょうどこの新種記載がされたころに、当時大学学部生だった私はチャイロシャコが房総半島や三浦半島城ヶ島などにも生息していることを確認しました。そこで記録を遡ってみたところ、1927年に現在の横須賀市・三浦市から報告されていたものが、神奈川県から最後に報告されていたチャイロシャコであったことが分かりました。このことから、今回の発見が約1世紀ぶりの再発見となったわけです。なぜこれまで見過ごされて来たのでしょうか?それはシャコの研究者がほとんどいなかったからというのもありますが、チャイロシャコが岩礁の穴の中に隠れて暮らしていることで、見つかりにくかったためと考えられます。でも実は水深1 m程度の場所にも生息していますので暖かくなってきたら、皆さんも磯観察やシュノーケリングで探してみて下さい。

 

 さて、これまで論文にした内容の一部であるチャイロシャコについて解説しましたが、実はもう1種、ハサミオフトユビシャコTaku spinosocarinatusという珍しい種も、鳥取県で初めて発見された標本について同論文で報告しました。この種は城ヶ島から発見されて1909年に新種記載された、三浦半島とはゆかりのある種です。しかし残念ながら、その新種記載以来、私を含めてだれも神奈川県からハサミオフトユビシャコを発見していません。私は2026年の目標の1つとして、このシャコを野外で見つけることを掲げたいと思っています。今後の研究にご期待下さい。(海洋生物学担当:中島)

 

 

文献情報:中島広喜・太田悠造・大澤正幸 2025. 本州沿岸岩礁域から発見されたフトユビシャコ上科2種の記録. タクサ 59: 1–9

以下のURLから無料でアクセスできます。

URL:https://doi.org/10.19004/taxa.59.0_19

 

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