未来へつなぐ博物館の使命――集め、残し、調べ、伝える

2026.10.01

 2026年7月18日にオープンした特別展示「未来へつなぐ博物館」は、夏休み期間中の来館者が1万人を超えるなど、たいへん好評をいただいています。また、担当学芸員による展示解説や特別展示トークにも多くの方が参加されました。

 7月から10月までのあいだ、この「自然と歴史のたより」では、特別展示「未来へつなぐ博物館」を担当した自然部門の4人の学芸員が、展示や展示解説には収まりきらなかった話題を連載してきました。今回は昆虫担当学芸員による特別展示に関連した話題になります。

 

 博物館では『身近な昆虫365』という冊子を作成し、約470種の昆虫の名前と写真を掲載、地域の教育活動に役立てています。私の現在の研究は、これらの昆虫が他地域でも同じ顔ぶれかを調べ、違いがあればその特徴や意味を探るものです。

 研究で集める資料は、さまざまな調査地で同じ撮影者(私)が撮った昆虫の画像データに限定し、「身近に見られる」という表現のあいまいさを排除しています。調査中の撮影風景(写真1)では、対象に接近するために地面すれすれにカメラを構えているのが分かります。この写真は鹿児島県奄美大島での調査中の一コマで、カメラを向けた先(写真1の矢印)には毒蛇の一種ヒメハブがおり、やや逃げ腰で撮影に臨んでいる様子が映さています。昆虫だけでなく、動植物を総合的に記録することで、生き物たちの顔ぶれをより正確に比較できるよう努めています。

 

写真1:「筆者による野外での写真撮影の様子(大熊宏明撮影).矢印は被写体.」

 

 なぜ奄美大島(図1)を調査地に選んだのかというと、ひとつは三浦半島の南方にある伊豆諸島最南端の八丈島と奄美大島で共通する虫たちが確認されており、三浦半島と伊豆諸島という近隣地域の比較に奄美大島を加えることで、地域間の生物分布や変異の理解が深まると考えました。もうひとつは、当館の海洋生物分野が1988年から2010年まで22年間にわたり奄美群島の魚類調査を実施し、国内有数のコレクションを有していることから、海洋と陸域の違いがあるものの、三浦半島と奄美群島の生物相の比較に貴重な資料が活用できるという事情があります。

 

図 1:「三浦半島と比較調査他を示す日本地図.トピックス展示(本文参照)にて掲出したパネルより.三浦半島と奄美大島を白抜き赤字で示す.」

 

 奄美大島での調査の成果の一部は、2022年度の特別展示「黒潮のめぐみ」に際し、トピックス展示「奄美大島昆虫調査2022」として紹介しました(写真2、図2)。調査では動植物のべ700種を撮影し、その中から三浦半島に近縁種がいる昆虫類やクモ類を選び出し、比較可能な形で展示しました。

 

写真2:「2022年度特別展示『黒潮のめぐみ』.写真左奥がトピックス展示『奄美大島昆虫調査2022』.」

図 2:「奄美大島で撮影した昆虫写真と三浦半島などで見られる近縁種とを組合せたパネルの一部.トピックス展示(本文参照)にて掲出したパネルより.例として4種を示したが,展示では昆虫を中心に陸上動物54種を紹介した.」

 

 こうした比較研究を通じて、地球規模で進行する気候変動、特に温暖化にともなう生物分布の変化を考察し、未来の横須賀市の自然環境がどのように変わっていくか予測することを目指しています。すでに南方系の生物が本市に定着した事例が観察されており(過去の記事「最近見つけためずらしい昆虫たち」もご参照ください)、これらの動向を踏まえることで、今後、地域の身近な昆虫たちがどのように変わっていくかを考える手がかりになると考えます。

 また、過去の横須賀や三浦半島で生息していた身近な昆虫を理解するため、三浦丘陵に対する多摩丘陵(写真3)、さらに平作川の河口付近に対する北関東の太平洋岸河口域(写真4)、をそれぞれ比較する調査も行っています。これらの調査地域には三浦半島に比べまだ水田などの耕作地が多く存在し、横須賀市が歴史上経験した低温期と似た気候条件にあるため、自然環境や生き物の様子を描き出すことが、かつての横須賀市の野山の姿を再現することにつながると考えています。こちらの成果については、別の機会に改めてご紹介する予定です。

 

写真3:「多摩丘陵における調査地の一つ,小山田緑地(東京都町田市)の水田風景.」

写真4:「北関東の太平洋岸河口域の一つ,涸沼川下流(茨城県東茨城郡大洗町)の風景.初夏,対岸の水田地帯を背景にシジミ漁がおこなわれていた.」

 

 博物館には多様な時代・場所の資料が収蔵されています。得られた場所も時代も違うそれぞれの資料は、来館者のみなさんに対して展示として並べられます。資料は「集める」ことで場所を超え、「残す」ことで時間を超えた価値をもちますが、展示の中で意味を持ち、互いに関係づけられるためには、「調べる」の成果が欠かせません。

 この「調べる」活動を通じて学芸員は、地域の自然や歴史に関する知見を深め、資料同士のつながりや背景にある「伝える」ストーリーを紡ぎ出しており、活動成果をみなさんと分かち合いたいという思いをもって取り組んでいます。(昆虫担当:内舩)

 

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