企画展示「探究! 身近な昆虫 撮り歩き」

2026.04.01

 以前書いた2つのコラム――「昆虫観察のそばに『身近な昆虫365』」「「撮り歩き」のススメ」――の内容を、このたび企画展示「探究! 身近な昆虫 撮り歩き」にてとり上げることになりました。この展示を機に身近な自然を見つめ直す機会になればとの思いから、自然観察を始めるのに適した春にオープンしました。

 

 展示のテーマカラーをはじめとしたデザイン的な要素は、デザインが得意なスタッフさんとの打ち合わせのなかで決めました。春らしいピンクをメインに、ハチの巣の六角形や学芸員が撮影しているスナップ写真から描き起こしたイラストなど、虫が苦手な方にも興味をもってもらえるよう願いを込めました。ポスターやチラシとしてご覧いただけるほか、入口ゲートにもその要素を盛り込んでいます。

 

写真1 入口ゲート

 

 今回の企画展示では、「身近な昆虫」と「撮り歩き」を巡る4つのコーナーを設けました。

 

 最初のコーナー「いくつ知ってる?三浦半島の身近な昆虫」では、2018年度の刊行から好評をいただいている当館刊行物『身近な昆虫365』の内容を多くの方に知ってもらうため、紙面の主なページを拡大パネルにして展示しました。この刊行物は、私が当博物館の学芸員としての仕事を始めてから約10年間の活動で蓄積したことや試行錯誤から生まれたのですが、そうした背景にも触れつつ、当博物館での活動約20年の節目が近づく中で、来場者のみなさんと改めて三浦半島の身近な昆虫たちについて振り返る場となっています。

 入口ゲートの一角には開いた本の表紙をイメージし、紙面のパネルが足元から天井近くまで掲示された空間に進んでいただくことで、『身近な昆虫365』の本の中に入ったような体験を狙っています。

 

写真2 いくつ知ってる?三浦半島の身近な昆虫

 

 本の世界を突き当たって右へ曲がった壁には、「昆虫写真に捧ぐ」ポエムに沿って、最後のコーナー「やってみよう!撮り歩きの昆虫観察」できっと役に立つ昆虫写真撮影のコツを解説しています。ポエム制作の裏話としては、昆虫写真撮影のコツを列記するだけだときっと読みづらかったり難しかったりすると思ったことから、あらかじめ列記したコツの箇条書きからAI(ChatGPT4)にポエムを提案してもらい、推敲を重ねたものです。

 さらに、最も身近な昆虫調査の例として平和中央公園で現在も実施している「平和中央公園はっけん隊」についても紹介しています。この活動の背景や経過は、以前書いたコラム「平和中央公園の動植物調査:博物館の内外の学びを実現するために」に掲載していますので、よかったらご参照ください。

 

 第二のコーナー「どんな街?どんな自然?友好都市の身近な昆虫」では、私が2014年度に初めて「身近な昆虫」の地域比較を研究テーマとした際の原点である、会津若松市(福島県)での調査について紹介しています。友好都市や姉妹都市など市町村間の文化交流の多くは、都市間の歴史的な縁をきっかけにしています。遠く離れた都市間をつなぐ交流においては、お互いの自然もまた地域の違いを実感できるコンテンツになり得るのではないかという発想から、都市間交流を二次的に楽しむための自然の違いを可視化する調査を横須賀市の友好都市である会津若松市で行い、2020年に研究報告にて発表したものです。

 

写真3 どんな街?どんな自然?友好都市の身近な昆虫

 

 たまたま友好都市だったことから始めた会津若松市での現地調査でしたが、訪れるたびに現地協力者の方々の人柄や三浦半島ではすでに見ることができなくなってしまった昆虫などの自然を目にするたびに、会津若松市の歴史や文化について興味がわいたり調査にいくことが楽しくなったりしました。横須賀市国際交流・基地対策課制作の友好都市・会津若松市の紹介パネルも見どころです。

 

 第三のコーナー「『トコロ変わればムシ変わる!?』調査経過」では、三浦半島に対する比較調査としてこれまでに調査を行った各地域の昆虫たちを紹介しています。先ほどの会津若松市と三浦半島との研究では、互いの地域の間に異なる身近な昆虫がいることを明らかにしたのですが、そうした昆虫たちの中に「かつて三浦半島に生息していたけどいなくなった種」がいたことが、各地との比較調査に発展したきっかけです。三浦半島との地域間の違いを明らかにすることで、三浦半島の自然がたどった過去や未来の自然を考えるヒントにならないだろうか、という視点で行っています。比較地域は主に4つで、①多摩丘陵、②茨城県東部、③伊豆諸島、④九州南部、です。それぞれの地域に対して私が重ねている三浦半島の時代や自然環境の特徴が違っているので、各地の調査経過とともにどういった思いで調査を行っているかを、ご覧いただけましたら幸いです。

 

写真4 『トコロ変わればムシ変わる!?』調査経過

 

 比較地域の一つである伊豆諸島の八丈島は、私の前任学芸員の大場信義博士とさらにその前の学芸員である羽根田弥太博士(以前書いたコラム「当博物館の発光生物研究と展示ー近刊のご紹介を添えてー」)が、それぞれ発光生物の調査を行った場所でもあります。日本の発光生物やホタルの研究において国内外で活躍したこれら偉大な先輩方がどういった思いで現地を調査したのか、その調査レポートも展示しています。調査の目的が違うことで、博物館が過去に調査を行った場所を別の視点で見返すこととなり、今年で開館72年を迎える当博物館の過去と未来を考える機会になりました。

 三浦半島とは異なる自然環境の調査では、昆虫や花、風景など様々な自然を静止画としてカメラで数多く撮影したのですが、自然のごく一部を切り抜いた静止画だけでは伝えられない現場の雰囲気や昆虫たちの動きや鳴き声も記録したくなり、ときどき動画も「撮り歩き」しました。その一部のこのコーナーの一角で上映しています。

 

 最後のコーナー「やってみよう!撮り歩きの昆虫観察」では、来場者のみなさんが屋外で「撮り歩き」を実践されるまえに展示室で疑似体験していただく仕掛けや、「撮り歩き」を含むいろいろな昆虫写真撮影事例、昆虫写真の活用例などについて展示しています。

展示室の入口からすでに見えてしまっている大型模型も昆虫写真の活用例の一つで、このギンヤンマのヤゴの大型模型は、2024年夏の国立科学博物館特別展「昆虫MANIAC」で制作・展示され、その後約一年をかけて大阪・名古屋を巡って当博物館にやってきたものです。この模型の制作秘話を国立科学博物館と造形会社にそれぞれインタビューしたパネルとともに展示していますが、こうした造形でも写真を介したコミュニケーションが欠かせないということを実感しました。

 

写真5 やってみよう!撮り歩きの昆虫観察

 

 いよいよ4月になりました。先月末からソメイヨシノが咲き始め、昆虫たちの活動もようやく活発になった様子です。3月は企画展示の準備でほとんどフィールドに出られなかったので、身近な昆虫調査もこれから本格始動です。6月21日の展示会期末まで展示解説をあと2回(4月18日と5月16日)残すのみですが、せっかく「身近な昆虫」がテーマですので、会期中に新たに発見したことを展示の方にも反映してまいりたいと思います。ぜひ何度もご覧になっていただけましたら幸いです。(昆虫学担当:内舩)

 

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