再び開花!天神島のアオノリュウゼツラン

2025.10.03

2025年7月,博物館付属の天神島臨海自然教育園で4年ぶりにアオノリュウゼツランが開花しました。前回の2021年の開花時と同様に,今回の開花の様子もこの「学芸員自然と歴史のたより」で紹介します。

 

アオノリュウゼツラン(Agave americana)は,クサスギカズラ科の大型の植物です。幅30cm,長さ1.5mほどの多肉質の葉が地面に接するように放射状に広がり,株全体の直径は3~5mにもなります。メキシコ原産で,国内では鑑賞用として広く栽培されています。

開花までに時間がかかることから「めずらしい植物」とされ,原産地では10年から20年,日本では数十年かかることもあります。一度開花した株はその後枯死してしまうため,一生に一度だけの開花になります。天神島では10株以上栽培されており,最近では2014年と2021にも開花を確認しています。

 

●アオノリュウゼツランの観察

今回は、2021年には実施できなかった定期的な観察や訪花者(ほうかしゃ)の確認も行いました。

 

2025年5月14日

花茎が伸びています。高さは2mほどです。

 

2025年5月28日

花茎がさらに伸びました。職員の1人が「巨大なアスパラガスのよう」とコメントしていました。

 

2025年6月12日

花茎は5mを超えました。花序が増えてきました。

 

2025年6月28日

花茎はまだ伸びているようです。蕾がついていますが,開花までしばらくかかりそうです。

 

2025年7月9日

蕾がふくらんでいます。いくつか蕾が落ちているので,断面を見てみました。

開花までまもなくでしょうか。開花状況を訊ねる来園者が増えました。

 

2025年7月17日

7月16日に10花程度の開花を確認しました。翌7月17日は100花ほど開いていました。

 

2025年7月24日

花は見頃を迎えています。3羽のメジロが訪花していました。少なくとも30分以上,複数の花を吸蜜しているようでした。小さなハチも訪花していましたが,天神島のアオノリュウゼツランのポリネーター(花粉を運び、受粉に寄与する動物)はメジロだと考えられました(原産地でのポリネーターはコウモリだといわれています)。

また,花が咲きはじめると葉が徐々に萎れてきました。開花していない株の葉はみずみずしいままです。

 

開花した株の根本から小さな花茎がのびてつぼみをつけていました。前回の開花も同様で、大きく伸びて開花した後、地表近くにも花をつけていました。

 

2025年8月14日

わずかに花が残っています。約50個の果実ができています。中の種子は成熟するのでしょうか。それを確認するのはしばらく先になりそうです。

地表近くに現れた花茎にも花が咲きはじめました。試験的に4花に袋掛け実験(受粉実験)をしてみました。

 

2025年8月31日

同じ花の花粉を柱頭(ちゅうとう:めしべの先)につけた花も,同の株の別の花の花粉をつけた花も果実ができませんでした。次があれば数を増やして試したいです。ただし,多くの花は結実していないため,少なくとも同一花の中で受精がほとんど起こらないと考えてよさそうです。

 

 

●アオノリュウゼツランの繁殖

2021年10月に発芽させたアオノリュウゼツランの種子は,2025年10月時点で約30cmまで成長しました。アオノリュウゼツランは子株をたくさんつけて無性的に増える一方で,種子によって(有性生殖によって)繁殖することが改めてわかりました。

 

2021年に採集したアオノリュウゼツランの果実(断面)と種子

 

2021年に発芽したアオノリュウゼツランの種子

 

2021年から育てているアオノリュウゼツラン

 

一方で,アオノリュウゼツランは「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」の「重点対策種」に指定されています。このカテゴリは,「甚大な被害が予想されるため,対策の必要性が高い」とされるものです。現時点では天神島のアオノリュウゼツランが逸出する様子は見られませんが,今後も野生化しないよう適切に管理していきます。(植物学担当:山本)

 

参考文献

Onozuka M & Osawa T. 2022. Utilization potential of alien plants in nature-based tourism sites: A case study on Agave americana (century plant) in the Ogasawara Islands. Ecological Economics 195: 107362, DOI: 10.1016/j.ecolecon.2022.107362.

小野塚・大澤2022. 小笠原父島における外来植物アオノリュウゼツランの利用可能性. 小笠原研究年報 45: 29-44.

堀田満 編1989.『世界有用植物辞典』平凡社

清水建美 2001.『植物用語辞典』八坂書房

環境省・農林水産省2015. 生態系被害防止外来種リストhttps://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/iaslist.html(2025年10月確認).

 

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