学芸員自然と歴史のたより「古代の琴は神を呼ぶ」

 琴といえば、着物の女性が指に付けた爪で弦を弾き、優雅な調べを奏でているイメージを持つ方が多いでしょう。しかし、今から1500年前頃の古墳時代ではかなり様子が違っていたようです。古墳時代には埴輪がつくられていますが、このなかには琴を弾く人物の姿もみられます。ただし、確認できるのはすべて男性です。

 横須賀市神明町にある神明小学校の地下に今も眠る蓼原古墳から出土した琴を弾く埴輪は、椅子に座る男子です。烏帽子形の帽子を被り、後頭部には垂髪(すいはつ)がみられます。また、袴の膝部分には鈴を付けた脚結(あゆい)がみられ、赤く彩色された沓を履いています。これらはすべて高い身分を示す表現ですから、古墳時代に琴を弾いていた人は高貴な男性ということになります。ではなぜ高貴な男性が琴を弾いていたのでしょう。

 『古事記』仲哀天皇の条には「‥、天皇御琴を控かして、建内宿禰大臣沙庭に居て、神の命を請ひき。」とあり、『日本書紀』神功皇后の条には「‥、皇后、吉日を選びて、斎宮に入りて、親ら神主と為りたまふ。則ち武内宿禰に命して琴撫かしむ。中臣烏賊津使主を喚して、審神者にす。」とあることから、古代において琴は国政に関して神の託宣を請う際に天皇自らあるいは重臣が弾く弦楽器であったことがわかります。

 どのように弾いていたかといえば、埴輪の右手にヒントが隠されています。よく見ると、右手にはヘラ状の撥が握られているのです。これは、指あるいは指先に付けた爪で弦を弾く奏法ではなく、撥で弦を叩くあるいは掻き鳴らしていた可能性が高いことを示しています。したがって、ハードロックのギターのように演奏することで、それを聞いた巫女がトランス状態になり神が憑依し、託宣つまり神のお告げを聞いていたと思われます。すなわち、古代の琴は音楽を演奏するためのものではなく、神を呼ぶための重要な祭祀用具であったと考えられるのです。

  本当に撥を持っているかご覧になりたい方は、人文館1階展示室までお越し下さい。弾琴埴輪がお待ちしております。もしかすると、古代の琴の音が聞こえるかもしれません。(考古学担当:稲村)

 

蓼原古墳出土弾琴男子椅座像埴輪

 

垂髪(すいはつ)

 

鈴付脚結(あゆい)と沓

 

右手に撥を持つ

 

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