熱帯の魚類の耳石化石【学芸員自然と歴史のたより】

 現在は人間活動による地球温暖化が懸念されていますが,過去の地球では,太陽活動の変化や火山活動,地球の公転軌道の変化などによって温暖化と寒冷化が繰り返されてきました。約12万5000年前は世界中で温暖化が進んだ時期で,関東地方では海水面の上昇により海岸線が陸側に移動し,「古東京湾」という浅い海が広がっていました。横須賀付近は「古東京湾」の南縁にあたり,浅い海では土砂が降り積もって横須賀層という地層がつくられ,陸上ではナウマンゾウが暮らしていました。

 横須賀層は横須賀市馬堀町や大津町など横須賀市の東京湾岸に沿って断片的に分布し,古くから貝化石が採集できることが知られていました。最近,横須賀市馬堀町の横須賀層を詳しく調べたところ,544個の魚類の耳石化石がみつかり,少なくとも35種の魚類の耳石を含むことがわかりました。耳石とは内耳の奥にある石です。魚類は種類によって耳石のかたちや大きさが違うので,耳石から魚類の種類を決めることができます。耳石から特定されたの魚類の多くは,現在も横須賀周辺にすんでいるものでした。しかし,2種類は,現在の台湾より南にすむ,熱帯の魚類の耳石でした。12万5000年前には,温暖化の影響により,熱帯の魚類が横須賀付近まで分布していたことが明らかとなったのです。このような過去の化石の記録は,このまま温暖化が進んだとき,動物の分布や環境にどのような変化が生じるかを推測するために重要な証拠となります。

 

 

12万5000年前の南関東の様子.横須賀層から産出した代表的な魚類の耳石化石と,同時代の地層から産出した化石も比較のために示した.赤字は熱帯に生息する種,緑字は温帯に生息する種を表す.Mistui et al. (2023) を改変.

 

横須賀層から産出した魚類の耳石化石.三井翔太博士提供.

 

 耳石化石の研究は,(株)日本海洋生物研究所の三井翔太博士を中心に行われ,研究成果は2023年5月に国際学術誌ヒストリカルバイオロジーに掲載されました。三井博士には今回の記事の執筆にもご協力いただきました。(地球科学担当:柴田)

 

文献:Mitsui S., Lin C-H., Taru H. and Shibata K. 2023. Fish otolith record reveals possible tropical-subtropical fish community in temperate Japan during the exceptionally warm Last Interglacial period. Historical Biology: DOI: 10.1080/08912963.2023.2201933.

 

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