黒潮の大蛇行と横須賀の海【学芸員自然と歴史のたより】

2022(令和4)年11月現在、黒潮の大蛇行は1965(昭和40)年からの観測史上最長期間の記録を更新中です。

海上保安庁HPの「海洋速報」の観測記録では、2017年の夏に紀伊半島沖に冷水渦(冷水塊)が発生したのをきっかけに黒潮の大蛇行が始まり、5年の長きにわたって大蛇行を続けています。

 

黒潮の大蛇行

 

 

なぜ、紀伊半島沖に冷水渦が発生すると黒潮の大蛇行が起きるかというと、密度(温度)の異なる海水は混ざりにくく、南方から流れてくる暖かな流れ(暖流)の黒潮は、深層から湧き上った冷たい水の塊である冷水渦にぶつかると、これを迂回するように進路を変えます。その結果、黒潮は南側に大きく蛇行した流れとなってしまうのです。

黒潮が大蛇行すると、横須賀周辺の海にも大きな影響が現れます。顕著なのが相模湾や東京湾への黒潮の分流の侵入による海水温の上昇です。冷水塊をよけて一旦南下した黒潮はその後、関東地方に向けて急角度で北上し、関東地方に接する直前で東の房総半島沖へと進路変更するため、黒潮から枝分かれし、方向転換しきれなかった分流は横須賀の沿岸に向かってぶつかってくるような形になります。そのため横須賀周辺、特に黒潮の影響を受けやすい相模湾岸では水温の上昇が起きるのです。

また、黒潮は暖かな海水だけでなく、南方の暖かな海で生まれた生物の卵や浮遊幼生(生まれたばかりのプランクトン生活をする生物)も運んできます。これらの多くは通常、以前にこのメールマガジンでも紹介した「死滅回遊魚」として冬の寒さに耐えられずに死んでしまうのですが、黒潮の大蛇行が長期にわたると、これまであらわれなかった南方系の種類の生物が見つかったり、冬季の水温低下が緩くなり、死なずに冬を越してしまうものが出てきたりして、少しずつ生態系にも変化をもたらします。

 

今年天神島で初めて見つかった熱帯魚

(上:クロオビエビス、下:ネズスズメダイ)

 

こうした水温上昇は、生物相の変化や魚たちのゆりかごといわれる「藻場」の消失にも関わっていると考えられていて、今後の大蛇行の継続状況によっては魚屋さんの店頭にならぶ魚の顔ぶれや価格にも変化があらわれるかもしれません。

黒潮の発生のしくみや蛇行のパターンなどについては、現在開催中の博物館特別展示「黒潮のめぐみ‐海流が運んだ生き物と文化」の中で紹介しています。ぜひ、ご来館・ご来場ください。(海洋生物学担当:萩原)

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