古文書の取り扱いと「くずし字体験コーナー」の設置【学芸員自然と歴史のたより】

 私の担当する文献史学(歴史学)とは、くずし字で記された古文書(一般に和紙に墨書されたおおむね100年以上を経過した古い文書)の記述から歴史を明らかにする学問です。同じ博物館の中でも、担当する分野によって資料に対する認識や扱い、対応が異なります。本号では、古文書の取り扱い方の一端と最近人文館2階に設置した「くずし字体験コーナー」について紹介したいと思います。

 

「くずし字体験コーナー」(人文館2階常設展示室)

 

 博物館では、市内外の方から横須賀・三浦半島ゆかりの古文書の寄贈を受け、それらを専門的知見に基づいて整理しています。その後、こうした古文書を後世の横須賀市民へ確実に引き継ぐべく適切に保存・管理するとともに、教育的配慮のもと展示を通して一般に公開しています。

 古文書などの歴史的資料(以下、史料)は、過去を知り、未来を考えるための証拠物であるとともに、先人の生きた軌跡を記した遺品ともいえます。

 こうした史料、とりわけ古文書の取り扱いにあたっては、①取り扱う前によく手を洗う(手の汚れや皮脂を除く)、②取り扱う場所で飲食はしない、③筆記用具には必ず鉛筆を用いる(インクを誤って付着させない)、④時計や指輪などは外す(史料を破損する恐れを除く)、⑤指をなめてページをめくらない、⑥書き込みはしない、⑦補修にセロハンテープや化学のりを使用しない(紙を傷める)、⑧直接コピー機にかけてコピーをしない(紙の劣化を促す)など、そのほか一般常識的なことも含めて様々な注意事項があります。こうした注意事項(「~をしてはいけない」、「~しなさい」)は、一見堅苦しく思われるかもしれませんが、古文書などの史料は一度失われたら元に戻すことができない世界に一つだけのものです。よって、史料を取り扱う際には必ず破損や劣化をさせる恐れのある行為・状態を排除し、緊張感をもって取り扱うことが大切だと考えています。

 ちなみに史料の取り扱いということでは、現在でも日本刀を手に取り鑑賞する際には刀を代々伝えてきた先人や制作者に対する「敬意」や「感謝」をあらわすため、必ず鑑賞の前後に「一礼」をします。刀は単なる「使い捨ての道具」ではないのです。同様に、戦災や災害などを経て、長い歳月をかけて伝えられた古文書などの史料に対しても「敬意」をもって取り扱うことが必要ではないでしょうか。こうした「目に見えないこと・もの」について考えるきっかけを提供するのも社会教育施設である博物館の役割ではないかと思っています。

 このように、取り扱いにあたっても何やら小難しく感じる古文書ですが、くずし字が読めると案外面白いものです。それは記された内容に興味をもったという場合もあるでしょうし、読めなかった文字が読めるようになった喜びがクセになるという場合もあると思います。もちろん古文書には記された内容だけではなく、形状や書式などさまざまな情報が含まれています。しかし、まずは古文書に記された文字、すなわち「くずし字」に親しんでもらおうと当館人文館2階に「くずし字体験コーナー」(ワークシート)を設置しました。このワークシートでは、①博物館の展示物をくずし字の組み合わせの中から見つけ出す、②実際に横須賀市内の地名をくずし字で書いてみる、ということが体験できます(詳細は現地で体験してみてください)。ワークシートの制作にあたっては、将来の学芸員を養成する立教大学学芸員課程の現役学生3名の協力を得ました。

 そんな「くずし字体験コーナー」設置から約2か月経った現在ですが、来館者の方からは「最初は難しかったけど、な(慣)れると暗号みたいで楽しかった」(家族連れで来館された11歳)、「とっても難しいですね…、でも書けたり解読できたらかっこいいと思いました!」(市内在住、20代女性)などの感想を頂いています。

 まずはこのワークシートを通して楽しみながら学ぶことで、少しでも「くずし字」に関心を持って頂ければと思っています。そして、それぞれが学びを深めるなかで地域の歴史やその背景にある古文書などの史料への向き合い方について考えて頂ければと思います。

 ご来館の折には、ぜひ「くずし字体験コーナー」に挑戦してみてください。(文献史学担当:藤井)

 

 

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