100年目に開花?天神島のリュウゼツラン【学芸員自然と歴史のたより】

 この夏、国内のいくつかの場所で「リュウゼツラン」の開花が話題になりました。花を咲かせるまでに長い期間がかかること、花をつける茎の高さは数メートルにもなることから、各地で開花のたびによくニュースでとりあげられます。

〇天神島臨海自然教育園でも開花!

 属名(Agave)の「アガベ」で呼ばれることもあるキジカクシ科(旧リュウゼツラン科)リュウゼツラン属の植物は、中米を中心に約300種が知られています。博物館付属の天神島臨海自然教育園には、耐寒性がある「アオノリュウゼツラン」が屋外で生育しています。アオノリュウゼツランはメキシコ原産で、現地では繊維や発酵酒の原料に利用されます。

 アオノリュウゼツランの英名は「センチュリープラント」といい、100年目に開花することが由来となっていますが、熱帯では10~20年、日本では30~50年に一度開花するそうです。一度花を咲かせるとその株は枯れてしまいますが、天神島には10株ほどあるため、この群落としては6~7年おきに開花し、今年も7年ぶりの開花を確認しました。

花をつけたアオノリュウゼツラン(全景).株の根元近くにはハマオモトの花が咲いている.

 

アオノリュウゼツランの花.

 

アオノリュウゼツランの花.

 

 

〇自生地でなくても種子はできる!?

 何十年もかけて繁殖のために1度だけ開花するリュウゼツランですが、自生地ではない天神島で咲いたアオノリュウゼツランは子孫を残すことができるのでしょうか。アオノリュウゼツランのポリネーター(花粉を運び、受粉に寄与する動物)は、コウモリであることが知られています。天神島のアオノリュウゼツランにどんな動物が訪れていたのかは観察できていませんが、8月末にはたくさんの果実をつけました。その後、台風接近に伴い9月末に果実を回収したところ、成熟していると思われる種子を50個以上確認できました。現在、30個の種子をまき、1個体だけ発芽しています。これは、自家受精(同じ個体の花粉によって受精する)によって種子ができたと考えられます。

 天神島のアオノリュウゼツランは、子株をたくさんつけて無性的に増えている姿が印象的ですが、発芽能力のある種子もできました。この個体が大きく育ち、花を咲かせるまであとどのくらいかかるのでしょうか。

 

果実の断面.

 

 

アオノリュウゼツランの実生(みしょう).

 

 

 

 

〇数十年に1度だけ花を咲かせるひみつ

 野外には、1年以内の寿命の中で開花・結実する植物(1年生-1回繁殖性)や、2年以上の寿命の中で何度も開花・結実する植物(多年生-多回繁殖性)が多く見られます。その一方で、リュウゼツランのように何十年も生きてから1度だけ花を咲かせる植物(多年生-1回繁殖性)も存在します。身近な植物では、タケやササのなかまも同様です。いずれの繁殖の仕方にも、それぞれ利点・欠点が考えられています。一般的に、繁殖の回数・量(一度にできる種子の数や大きさ)と寿命の長さには「トレードオフ」が存在します。例えば、「多年生の植物は、1年生の植物と比べて、地下部に栄養を多く配分し寿命が長い反面、繁殖量は小さい」というように、一方を増やそうとすると他方は減ってしまいます。一回繁殖生のリュウゼツランは、開花までに長い時間をかけて大きく成長したり、多くの子株をつけたりする反面、それまでの時間は枯死するかもしれない様々なリスクを抱えています。不思議に思えるリュウゼツランの開花も、数ある繁殖の仕方のひとつであり、長い年月をかけて最適化された結果なのでしょう。(植物学担当:山本)

 
参考文献
田中健太2019「植物の生活史進化と気候とのかかわり」地学雑誌128(1)147-154
堀田満 編1989『世界有用植物辞典』平凡社

  

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