三浦半島と周辺海域の活断層【学芸員自然と歴史のたより】

 三浦半島には,5本の活断層が知られています。活断層とは,岩盤や地層のズレである断層のうち,今後も活動して地震を起こす可能性があるものを言います。ここでは三浦半島の活断層の概略を紹介します。

 三浦半島には北から衣笠断層,北武断層,武山断層,南下浦断層,引橋断層の活断層があります。また,1923 年関東地震の際に下浦地震断層が出現しました。さらに,浦賀水道の金田湾断層も活断層です。これらの断層をまとめて三浦半島断層群といいます(図1)。これらの断層はいずれも上下変位を伴う右横ずれ断層です。

 三浦半島断層群の最新活動時期や活動間隔は,1990年代に詳しく調査されました。その結果,衣笠・北武・武山断層をまとめた北断層群は,近い将来の活動の可能性が高いと考えられています。2002年以降30年以内の北断層群の地震発生確率を6~11%と見積もった報告もあります。これに対して南下浦,引橋断層をまとめた南断層群は,北断層群に比べて活動の可能性は低いと考えられています。また,2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震とそれ以後の地殻変動のデータに基づくと,三浦半島断層群の地震発生確率が高くなっている可能性も指摘されています。北断層群が活動するとマグニチュード7程度の地震が発生すると考えられ,建物の損壊,液状化,斜面崩壊,津波などの被害が予想されます。このように北断層群は今後の活動が気遣われる要注意断層です。

 最近では,海域や地下深部における三浦半島断層群の延長部が明らかになってきました。音波を使って海底の地質構造を探る反射法音波探査により,金田湾沖と葉山沖において,三浦半島断層群の延長部に断層が確認され,相模湾側では少なくとも姥島南方3 km付近まで活断層帯が延びていることが明らかになっています。陸上の活断層だけでなく,海域の活断層も同時に活動すれば,地震の規模がより大きくなります。また,東京湾~三浦半島~伊豆半島の反射法地震探査からは,三浦半島断層群が東京湾下の深度約20 kmで,プレート境界断層に収れんすると考えられています。相模湾のプレート境界で発生する地震と,三浦半島断層群による地震との関係が,今後の研究で明らかになるかもしれません。

 

図1.三浦半島と周辺海域の活断層.赤線は活断層,赤点線は推定活断層を示す.陸上の活断層は神奈川県(2001),金田湾断層は今泉ほか(1987),F1,F2,F4断層は佐藤・阿部(2019),その他の海底の断層は森ほか(2015)に基づく.柴田ほか(2021印刷中)を簡略化.

 

 2021年3月11日,東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震から丸10年となります。また,2月13日には福島県沖を震源とし,東北地方太平洋沖地震の余震とされるマグニチュード7.3の地震が発生しました。震災の教訓を忘れずに,地震について正しい知識を持ち,次に来る地震に対して備えを怠らないようにしましょう。(地球科学担当:柴田)

 

もっと詳しく知りたい方は
柴田健一郎・野崎 篤・高橋直樹・笠間友博・西澤文勝・田口公則 2021印刷中. 三浦半島の新第三系と第四系:付加体−外縁隆起帯−前弧海盆堆積物. 神奈川博調査研報 (自然), (16): 69-106.

 

文献
今泉俊文ほか 1987. 活断層研究, 4: 28-36.
神奈川県 2001. 神奈川県地域活断層 (三浦半島断層群) 調査事業成果報告書. 91pp.
森 宏ほか 2015. 活断層・古地震研究報告, (15): 143-177
佐藤智之・阿部朋弥 2019. 活断層・古地震研究報告, (19): 1-11.

 
 

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