三浦半島の沖合い、伊豆諸島の近海には「黒潮」という海流が流れています。
海流とは地球の自転によって引き起こされる大きな海の流れで、そのひとつである黒潮は北西太平洋をフィリピン近海から北東方向に流れ、琉球列島や本州南部の太平洋岸へと暖かな海水を運んできています。また、黒潮は最大流速が4ノット(時速約7.4 km)におよび、世界有数の速さをもった海流としても知られます。
熱帯・亜熱帯にくらす魚の中には稚仔魚や卵の時代に、黒潮にのって横須賀の海に流れてくるものがあります。これらの多くは夏から秋にかけてのあたたかな時期を横須賀の海で過ごすものの、冬の寒さには耐えられずに死んでしまうことから「死滅回遊魚」と呼ばれます。また、暖かい季節にだけあらわれることから「季節来遊漁」と呼ばれたり、分布を広げるものの、子孫を残さずに一生を終えてしまうことから「無効分散」をする魚と呼ばれたりもします。
では、死滅回遊魚にはどんなものがあるのでしょう。代表的なものとしてスズメダイのなかまがあります。もっともよく見られるオヤビッチャやイソギンチャクと共生するクマノミはいずれも横縞模様の魚で、1円玉くらいの大きさの稚魚が見つかります。次いでよく見られるものにチョウチョウウオのなかまがあります。チョウチョウウオのなかまは美しい色や模様をしていて、まるで海の中の蝶々のようだ、ということで名付けられた魚たちです。横須賀の海ではトゲチョウチョウウオやフウライチョウチョウウオなどが毎年、夏になると深さ数十cmほどの浅い岩場などで見つかります。
観察には「箱めがね」や「水中めがね」があると便利です。磯の岩かげをそっと覗くと、岩のすき間を出入りする美しい死滅回遊魚たちを見つけることができるかもしれません。
今年の夏もすでに、横須賀の海には熱帯・亜熱帯生まれの魚がやってきていて、当博物館付属の天神島臨海自然教育園では6月中旬にはチョウチョウウオの稚魚が出現しています。これから秋までの束の間ではありますが、磯に出て熱帯気分を味わってはいかがでしょう?(海洋生物学担当:萩原)
オヤビッチャ
クマノミ
トゲチョウチョウウオ
フウライチョウチョウウオ
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