学芸員自然と歴史のたより「スズメバチたちのくらしと冬ごし」

 夏から秋にかけて巣が大きくなり、ときには近づいたヒトを襲うこともあるスズメバチたち。庭木の枝や家の軒下など目につきやすいところにつくるキイロスズメバチやコガタスズメバチが有名ですが、三浦半島ではその他にオオスズメバチ、ヒメスズメバチ、モンスズメバチ、チャイロスズメバチ、クロスズメバチを加えた7種が知られています。

 スズメバチたちのくらしは一年サイクルです。春、女王バチはたった1匹で巣づくりを始めます。大あごで削り取ってきた樹皮を唾液と混ぜて部屋の壁をつくり、部屋をひとつ作っては卵を産み、また部屋をひとつ...と、徐々に部屋を増やしながら産卵するうちに、先に産んだ卵から幼虫が生まれます。幼虫には巣の外で捕らえた虫をかみ砕いた肉団子を与えます。巣をつくり始めて約ひと月後、はじめに生まれた幼虫がさなぎを経て働きバチになると、女王は巣材はこびや狩りなど巣づくりのほとんどを働きバチに任せ、産卵に専念します。冒頭に述べたように、夏から秋にかけての時期は、次々に羽化する働きバチによって巣がどんどん大きくなります。働きバチは3週間ほどで死んでしまいますが、すぐに新しい働きバチによって補われます。

 秋、涼しくなるとスズメバチたちが餌にする虫が減ります。これ以上巣が維持できなくなるのを察するかのように、働きバチはいつもよりひと回り大きな部屋をつくります。それらの部屋は新しい女王バチと雄バチのためのもので、雄バチは羽化するとすぐに巣を飛び出して他の巣の新女王バチを探します。キイロスズメバチやオオスズメバチなどの大きな巣からは数百匹もの新女王バチと雄バチが生まれることがあります。

 交尾を終えた雄バチはすぐに死にます。新女王バチは体内に雄の精子を貯めたまま、巣を離れて冬ごしの場所を探します。三浦半島でも冬に山林で越冬するスズメバチ類を見つけることができます。博物館の調査では、朽ち木の中からコガタスズメバチ(図1)やキイロスズメバチ(図2)を、崖斜面の地中からヒメスズメバチ(図3)を確認しています。直接確認できていませんが、オオスズメバチやクロスズメバチも山林の地中で冬を越します。なお、チャイロスズメバチ(図4)は三浦半島に分布を広げて間もないため、冬を三浦半島で過ごせるのかどうか、まだ分かっていません。

図1 冬ごしをするキイロスズメバチ

 

図2 冬ごしをするコガタスズメバチ

 

図3 冬ごしをするヒメスズメバチ

図4 チャイロスズメバチ女王 スケール1cm

 

 一つの巣から何十、ときには何百もの新女王バチが生まれるのですが、それらが無事にオスと出会い、長く厳しい冬を乗りこえ、たった1匹での巣づくりを成功させ、秋に次の世代に命をつなぐまで、実に多くの困難が待ちうけています。私はフィールドで大きく育った巣に出くわすと、身の危険こそ感じつつも、ほんの一握りの成功者がようやく築くことができた「城」に、スズメバチたちの過酷な生存競争を重ね合わせてしまいます。

 博物館では2010年から横須賀市内でトラップを用いたスズメバチ類の捕獲調査を、横須賀市保健所との共同研究によって行っています(図5)。おもに冬ごしから目覚めた女王バチの活動をトラップで捕獲した時期と個体数によって把握しています。この調査の目標の一つは、春先のスズメバチ類の捕獲数からその年の夏~秋の発生規模を予測することです。「今年は多くなりそうだからご注意を!」...そんなスズメバチ予報をみなさまにお届けできたらと思います。(昆虫・陸上無脊椎動物担当 内舩)

 

図5 横須賀市スズメバチ調査

 

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