ハゼ類の多様性【学芸員自然と歴史のたより】

 今年(令和3年)5月に、上皇陛下が2種のハゼ類の新種記載論文を発表され、話題になりました。「ハゼ」は、ハゼ釣りや磯遊びでもよく見かける身近な魚ですが、その全体像はまだ明らかになっていない研究途上のグループです。

 一般に「ハゼ」とか「ハゼ類」と呼ばれる魚は、硬骨魚綱スズキ目ハゼ亜目(海外では「ハゼ目」としてスズキ目から独立させている場合もあります)に分類される魚の総称で、まだ名前が確定していないものも含めると、世界でおよそ2200種、日本国内でもおよそ660種、三浦半島からおよそ80種が見つかっています。この種類の多さや、熱帯から寒帯まで、あるいは河川・湖沼から深海まで生息する、広い環境適応性と種の分化が研究を難しく(おもしろく)しているのです。

 その中で最も親しまれているのが、秋に川の河口域でハゼ釣りの対象となるマハゼでしょう。その昔、東京湾岸では1日で100匹以上釣れて当たり前の庶民的な魚でしたが、産卵に適した浅い泥底の海や稚魚の成育に適した干潟などが埋め立てられたことにより次第に数が減ってしまい、現在では体長20㎝級の大物は高級魚として扱われるようになりました。もうひとつ、磯遊びで子どもに人気なのがアゴハゼです。潮だまりをおもな住処(すみか)として一年を通して三浦半島の磯で見ることができ、タモ網で簡単に捕まえられる魚として子どもたちの絶好の遊び相手になっています。

平作川で採集されたマハゼ

 

潮だまりでくらすアゴハゼ

 

 当博物館の収蔵資料の中には、三浦半島だけでなく世界中から集められた研究材料として貴重なハゼ類の標本がたくさんあります。上皇陛下が皇太子時代に新種として発表されたクロオビハゼの模式標本(種類の基準になる標本)や、学芸員が新種として発表したヒメアオギハゼ、エリホシベニハゼなどの模式標本、外部の研究者が新種として発表された10種を超える模式標本など、博物館の資料はハゼ類の研究に貢献してきました。昨年11月には鹿児島大学との共同研究によって、奄美大島で採集されたハゼ類の収蔵標本が、それまでニューギニア島でしか見つかっていなかった種類であることが明らかになり、北半球からの初記録として論文が発表されました。その他にもまだ、名前のついていない種類のハゼ類標本が収蔵ざれていて、今後の研究が期待されています。(海洋生物学担当:萩原)

 

クロオビハゼの模式標本

 

北半球初記録となったホコサキキララハゼ

 

まだ名前のないハゼの一種

 

 

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