学芸員自然と歴史のたより「「撮り歩き」のススメ」

 以前このコラムにて、博物館で販売中の冊子『身近な昆虫365』について紹介しました。その冊子に掲載されている写真は全て、このコラム筆者の私が当博物館に着任して以降、約10年にわたって三浦半島内で撮影したものです。

 デジタルカメラやスマートフォンの進歩により、私たちは身近な自然を手軽に、しかもキレイに撮影できるようになりました。こうした自然写真は、昆虫や草花や岩石など実物の標本に比べると、直接的な〈証拠資料〉になりにくいという点では劣るものの、生きているときの色や形、周辺の環境や行動など、標本には残しにくい情報をもたらすという利点があります。

 私は、前述のカメラによる昆虫調査・観察の経験をもとに、2015年から自然観察会において「撮(と)り歩(ある)き」というスタイルを提案しています。「撮り歩き」とは、自然観察の道すがら、見つけた自然を写真に撮りながら観察することを表現した造語です。

 「撮り歩き」では、カメラを構えながら昆虫に近づいたり、昆虫を撮影しながら角度やカメラの設定を変えたりするため、昆虫を見つけるたびに立ち止まったり、ゆっくり歩いたりします(写真1)。これにより、対象となる昆虫の動きに注目したり、周りにいる別の昆虫の発見につながったりします。デジカメはその場でピントが合っているかをチェックできるので、小さくて見逃しがちな昆虫たちの生態に気づくチャンスも増えます(写真2)。同じ種の昆虫であっても出会うたびに撮影することで、その日その場所でどんな昆虫が多かったか(少なかったか)も、画像の枚数から類推できますし、同じ種と思っていたのに後で見返したら別の種が混じっていた、という発見にもつながります。

 写真のデジタル化は、画像データの管理さえできれば気軽にシャッターが切れることから、まさに「撮り歩き」の時代が到来したと言っていいでしょう。身近な、どこにでもいる種類の昆虫でも、撮りためた写真を見返すと〈奇跡の一枚〉と呼べるような瞬間が写っていることがあります(写真3,4)。立春を過ぎ、3月上旬には啓蟄の候(2020年は3月5日)を迎えます。昆虫をはじめとした様々な自然を楽しむ手段として、今シーズンは「撮り歩き」にもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。(昆虫担当 内舩俊樹)

 

写真1 左から右へ,対象に近づきながら写真を撮る様子.

 

写真2 オオヒラタシデムシ(コウチュウ類)の交尾.

上に乗るオスが,下のメスの触角をくわえて引っ張っている.

 

写真3 羽化直後のアカスジキンカメムシ(カメムシ類).

腹端から余分な体液を排出した瞬間.

 

写真4 ツユムシの一種(バッタ類)のメス終齢幼虫.

腹端に排出した糞を後脚で蹴り飛ばす習性があるが(左),失敗して背中に乗ってしまった(右).

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