学芸員自然と歴史のたより「茶色の土器と灰色の土器、何が違う?」

 古墳時代の土器には、土師器(はじき)と呼ばれる茶色の土器と、須恵器(すえき)と呼ばれる灰色の土器があります。土師器は弥生時代以来の技術をもとに、地面に掘った浅い竪穴(たてあな)などを使って700~800℃程度の温度で焼いた野(の)焼きの土器です。粘土が酸化するために、鉄銹(てつさび)と同じように赤茶色となるのです。これに対し須恵器は炎の特性を利用し、斜面に掘ったトンネル状の穴すなわち窯(かま)の中で焼かれた土器です。焼成温度は1200~1300℃と高温で、約1600年前に朝鮮半島から伝えられた当時最先端の技術で、窖窯焼成(あながましょうせい)と呼ばれています。ただし、高温でも焼いただけでは野焼きと同じく茶色のままですが、最後に焚き口を密閉することで窯体(ようたい)内は酸欠状態となり、すでに酸化していた土器から逆に酸素を奪って薪(まき)が燃えるため土器が還元され、灰色になるとされています。理屈のうえではこうですが、実際にやってみるとなかなかうまく還元されず、灰色にはならないようです。現代では理科の授業で習う「酸化と還元」ですが、古代の人々は理屈ではなく、たゆまぬ努力と豊かな経験の積み重ねによってこの技術を体得していったと思われます。

 低温で焼かれる土師器は割れやすく保水力も良好ではありません。これに対し、金や銅までもが溶けてしまうほどの高温で焼かれる須恵器は硬く丈夫で、保水力にも優れています。単純にみれば劣っている土師器が駆逐され、優れた須恵器だけが残るはずです。しかし、その後も土師器はさかんにつくられ続けています。なぜでしょうか?

 実は一長一短、それぞれの土器がもつ特性が背景にあったようです。須恵器は焼きものとしては優れていますが、窯を築く高度な技術ばかりでなく、高温焼成のためには大量の燃料が必要となるのです。一方、土師器は低温のため燃料も少なく、比較的簡単に焼成できるのです。したがって大量生産、大量消費も可能となります。また、土師器甕(かめ)は煮沸用の土器として使われていますが、須恵器は直接火にかけると割れるため煮沸には不向きなのです。このようにみてくると、土師器は大量消費用の普及品および煮沸用具、須恵器は高級品および保存容器としてそれぞれの特性を活かしながら相互補完的に共存していたのです。(考古学担当:稲村)

 

なたぎり遺跡出土土師器

内原遺跡出土土師器台付甕

 

三浦市さぐら浜洞穴遺跡出土須恵器坏

 

長浜横穴墓群出土須恵器長頸壺

 

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