学芸員自然と歴史のたより「野比海岸の断層ガウジ」

 横須賀市千駄ヶ崎の西方、県道212号久里浜港線沿いの野比海岸では、活断層である北武断層と、新第三紀の地層が観察できることを「野比海岸の地質:活断層と新第三紀の地層」で述べました。今回は活断層付近で見られる柔らかい断層ガウジについてご紹介しましょう。

 野比海岸で見られる地層は中新統葉山層群と中新―鮮新統三浦層群逗子層で、それらの地層の境界が活断層である北武断層の破砕帯となっています。破砕帯は野比海岸で約160 mもの幅があります。破砕帯には玄武岩や蛇紋岩 (かんらん岩),白色石灰質チャート,暗緑色凝灰岩などのブロックや転石が見られ、緑灰色、灰色、赤褐色などの断層ガウジによって取り囲まれています。断層ガウジとは、断層の運動によって岩石が粉砕され、粘土のように細かくなったものをいいます。

 この場所の断層ガウジ4点を採集し、X線を照射して岩石を構成する鉱物を特定するX線回折を行いました。その結果、にぶい赤褐色とオリーブ灰色の断層ガウジは主に石英からなり、斜長石とスメクタイト、方沸石を含むことがわかりました。一方、灰色と緑灰色の断層ガウジはそれぞれ石英と蛇紋石からなることがわかりました。スメクタイトや方沸石を含む断層ガウジは北武断層破砕帯に含まれる暗緑色凝灰岩由来、蛇紋石からなる断層ガウジは蛇紋岩由来と考えられます。石英からなる灰色の断層ガウジの由来はよくわかりませんが、周辺の逗子層または葉山層群由来かもしれません。一般的に蛇紋岩地帯は多くの地すべりが発生していて、蛇紋岩体に隣り合って形成されたスメクタイトなどが地すべりの原因になりやすいと考えられています。2017年 2月23日に野比海岸の県道212号久里浜港線で陥没が起こりましたが、この陥没はやわらかい断層ガウジが分布する場所で発生しました。2月23日には北武断層が活動した証拠や、関東地方を震源とする地震の記録はありませんが、三浦半島には波浪警報が発令されていました。波浪によって斜面の擁壁がくずれ、その結果断層ガウジが地すべりを起こし、道路が陥没したのかもしれません。(地球科学担当 柴田)

 

A:にぶい赤褐色の断層ガウジ,B:蛇紋岩ブロック (Sr) とそれを取り囲む緑灰色の断層ガウジ,C:灰色の断層ガウジ.

 

 

もっと詳しく知りたい方は

柴田健一郎・浅見茂雄 2018. 断層破砕帯で発生した斜面変動:横須賀市野比海岸における北武断層での事例報告. 横須賀市博研報 (自然), (65): 15-18.

 

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